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ミックス係数22.5以下の日本株は勝てたか|実測検証
by @kabueng55
東証プライム+スタンダードの現存2,700銘柄超×3断面 (2023〜2025年・各6月末・延べ8,267件) で検証した結果、**ミックス係数22.5以下の通過群はその後1年のプラス率68.8%・リターン中央値+10.6%**で、非通過群 (プラス率48.3%・中央値-0.7%) を大きく上回った。平均リターン差の95%信頼区間は+10.8〜+16.1ポイントでゼロを含まない (nitekabu Journal検証)。ただし現存銘柄のみを対象とした生存バイアスを含む簡易検証であり、条件と限界を本文で明記する。
調査概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ユニバース | JPX公式リストのプライム+スタンダード内国株式 3,122銘柄 (現存銘柄のみ・生存バイアスあり) |
| 断面 | 2023・2024・2025年の各6月末 (2022年断面は被覆が薄く参考扱い・集計除外) |
| 有効銘柄数 | 2,703 / 2,763 / 2,801銘柄 (断面ごと・延べ8,267件) |
| 指標 | ミックス係数 = PER×PBR。時価総額 ÷ 純利益 × 時価総額 ÷ 自己資本で算出 |
| 財務データ | 断面日時点で開示済みとみなす直近本決算 (期末+60日≤断面日・15ヶ月以内) |
| 判定 | ミックス係数22.5以下かつ黒字・自己資本プラス → 通過群 / それ以外 → 非通過群 |
| リターン | 断面日→1年後の株価リターン (分割調整済み・配当除き)。TOPIXを参照系列に併記 |
| 除外 | 断面日時点で鮮度条件 (期末+60日≤断面日・15ヶ月以内) を満たす決算がない: 延べ2,973件 (大半は2022断面)・赤字・債務超過 (延べ943件)・財務データ欠損 (7銘柄+項目欠損延べ33件)・価格欠損 (延べ102件) |
| データソース | yfinance (財務・株価)・JPX公式銘柄リスト |
検証スクリプトはコードレビューを7ラウンド実施し、時価総額の算出は市販データ (30銘柄サンプル・株式分割銘柄20銘柄含む) との突合で中央値誤差0.3%を確認しています。
ミックス係数とは——グレアム第7基準のおさらい
ミックス係数とはPERとPBRを掛け合わせた割安指標で、ベンジャミン・グレアムが『賢明なる投資家』で示した防衛的投資家の第7基準 (PER×PBRが22.5以下・書籍由来) に由来します。PER15倍×PBR1.5倍=22.5がこの数値の出どころです。
7つの基準の全体像と採点表は別記事に譲り、この記事は1つの問いに集中します——「22.5以下」という線は、日本株で実際に機能してきたのか? X上でも かもめ氏 (@kamomejan) の「グレアムのミックス係数から何を読み取るのか」という投稿のように使い方への関心は根強い一方、日本株の実データでこの閾値を検証した公開情報はほぼ見当たりませんでした。だから自分で測りました。
検証設計の意図——3つの落とし穴にどう対処したか
数字を見る前に、この検証がつまずきやすい3つの落とし穴にどう対処したかを短く書いておきます。結果の信頼性は、ここで決まるからです。
第一に、株式分割の扱い。過去のEPSやBPSに現在の株価を突き合わせると、分割で株数が変わった銘柄の指標が壊れます。本検証ではPER・PBRを1株あたり指標ではなく時価総額ベース (時価総額÷純利益、時価総額÷自己資本) で計算し、算出した時価総額を市販データと突合して誤差を確認しました (30銘柄・うち分割実施銘柄20銘柄・中央値誤差0.3%)。実は開発中のレビューで分割調整の二重適用を検出して作り直しており、この種の検証は「一見それらしい数字」が最も危険だと痛感しています。
第二に、決算の開示タイミング。3月期決算の数字は3月末には知り得ません。断面を6月末に置いたのは、日本企業の約7割を占める3月期決算の本決算発表 (4〜5月) が出揃った直後だからです。さらに「期末から60日以上経過した決算のみ使用」というラグを全銘柄に適用し、断面日に知り得ない数字で判定する先読みを防いでいます。
第三に、赤字銘柄の扱い。赤字企業のPERは負となり「22.5以下」の判定が意味を失うため、赤字・債務超過は母集団から除外しました (延べ943件)。つまりこの検証が答えるのは「黒字企業の中で、ミックス係数が低い銘柄は高い銘柄より勝てたか」という問いです。
ミックス係数22.5以下の日本株は勝てたのか?
3断面の合算では、通過群が非通過群を明確に上回りました。1年後プラス率は68.8%対48.3%、リターン中央値は+10.6%対-0.7%です。
| 指標 (3断面合算) | 通過群 (22.5以下) | 非通過群 |
|---|---|---|
| 件数 | 5,413件 | 2,854件 |
| 1年後プラス率 | 68.8% | 48.3% |
| リターン中央値 | +10.59% | -0.69% |
| リターン平均 | +21.43% | +8.00% |
平均リターン差 (通過-非通過) の95%信頼区間は、銘柄単位のブートストラップ (同一銘柄の複数断面をまとめて再抽出・5,000回) で**+10.84〜+16.05ポイント**となり、ゼロを含みませんでした。小型株効果の混入を粗く確認するため断面×時価総額5分位の層内で同じ差を取っても+14.5ポイントで、サイズだけでは説明できない差が残ります。
断面別の内訳も重要です。
| 断面 | 通過群 中央値 | 非通過群 中央値 | TOPIX (参照) | 通過群 プラス率 |
|---|---|---|---|---|
| 2023年6月末→2024年 | +17.48% | +1.73% | +22.69% | 79.0% |
| 2024年6月末→2025年 | -1.13% | -2.19% | +2.07% | 46.3% |
| 2025年6月末→2026年 | +17.41% | -0.91% | +39.80% | 80.4% |
2つの注意が要ります。第一に、2024年断面では差がほぼ消えています (中央値-1.1%対-2.2%・プラス率46.3%対45.6%)。優位は毎年出るものではなく、相場環境に依存します。この年はTOPIXが+2.1%とほぼ横ばいで、市場全体に新規資金が入りにくい局面でした。割安株の優位が「見直し買いの資金が割安側に回ること」で実現するなら、資金流入自体が細い年に差が出ないのは整合的です——ただしこの説明は本記事の解釈であり、3断面のデータから因果を確定することはできません。第二に、通過群の中央値はTOPIXを下回る年が多い点です。ただしTOPIXは時価総額加重の指数で、大型株の上昇に強く引っ張られます。等ウェイトの銘柄中央値と指数の単純比較はフェアではないため、TOPIXはあくまで「その年の地合い」を示す参照系列として読んでください。本検証の主眼は、同じ条件で構成した通過群と非通過群の比較にあります。
通過銘柄はどれくらいあるのか——「22.5」は日本株では絞り込みにならない
意外な発見はこちらかもしれません。日本株では約3分の2が「22.5以下」を通過します。
2023〜2025年の各断面で、22.5以下の通過は1,775 / 1,770 / 1,868銘柄。有効銘柄に対する通過率は6割台で推移しています。米国株を前提に設計された「22.5」という線は、バリュエーションの低い日本市場に持ち込むと過半が通る緩いフィルタになる——スクリーニング条件として単独で使うには絞り込み力が足りない、というのが実務上の含意です。
したがって使い方は2通りに分かれます。銘柄を絞る道具として使うなら、後述のとおり閾値を下げるか他の条件と重ねる。市場全体の割安度を測る温度計として使うなら、通過率の推移そのものが情報になります。
温度計としての読み方を補足すると、通過率が6割ということは「日本市場の黒字企業の過半は、グレアムの割安基準で見ても割安圏にある」ということです。東証がPBR1倍割れ企業に資本効率の改善を求めている背景とも重なります。逆に、この通過率が将来大きく下がった局面があれば、それは日本株全体のバリュエーションが切り上がったサインとして読めます。本記事の集計は定点観測の起点として、データ更新時に通過率の推移を追記していく予定です。
閾値を15や30に変えると結果は変わるか?
方向は変わりませんでした。感度分析として閾値を15と30に振った結果です (22.5が主仮説・15/30は探索的な確認)。
| 閾値 (3断面合算) | 通過件数 | 通過群 プラス率 | 通過群 中央値 | 非通過群 プラス率 | 平均差の95%CI |
|---|---|---|---|---|---|
| 15以下 | 4,425件 | 70.6% | +12.00% | 51.5% | +10.11〜+15.54pt |
| 22.5以下 (主仮説) | 5,413件 | 68.8% | +10.59% | 48.3% | +10.84〜+16.05pt |
| 30以下 | 5,971件 | 67.6% | +9.71% | 46.3% | +10.84〜+16.24pt |
より厳しい15以下で通過群の成績がやや良く、緩い30以下でやや薄まる——グラデーションは「低ミックス係数側に優位があった」という主結果と整合的です。一方で、15まで絞っても通過は4,400件超 (有効の過半) あり、閾値の微調整だけで「少数精鋭のリスト」は作れません。日本株でこの指標を絞り込みに使うなら、青島周一氏 (@syuichiao89) がミックス係数にPBR=PER×ROEの分解や自己資本比率を重ねると発信しているような、複合条件の一部品として使うのが現実的です。
いまの日本株で通過するのは何銘柄か
2026年7月9日断面では、有効2,693銘柄中1,697銘柄 (63.0%) が22.5以下でした。閾値15以下でも1,286銘柄、30以下なら1,924銘柄です。
業種分布の上位は卸売業 (186)・サービス業 (150)・情報・通信業 (129)・化学 (121)・機械 (116)。伝統的な「バリュー株=重厚長大」のイメージに対し、サービス業や情報・通信業が上位に入るのは、通過銘柄が母集団の6割を占めるほど広い集合だからです。個別銘柄名の例示は、通過銘柄数が1,697と多く特定銘柄を挙げる意味が薄いため、本記事では業種分布までに留めます (基準充足の集計であり、いずれにせよ売買の推奨ではありません)。
限界と注意
この検証には次の限界があります。数値を使う際は必ずセットで参照してください。
- 生存バイアス: ユニバースは現在のJPX上場リストで、検証期間中に上場廃止した銘柄を含みません。破綻・上場廃止で大きな損失を出した銘柄が母集団から欠けるため、両群とも実際よりリターンが良く見える方向のバイアスがあります。通過群と非通過群の「差」への影響は不明です。
- 期間が約3年 (3断面) と短い: yfinanceで遡及できる年次財務が約4〜5期分のためで、2022年断面は被覆が薄く (有効142銘柄) 参考扱いとして集計から除外しました。3断面のうち2つが上昇相場という地合いの偏りがあり、10年スパンの検証はEDINETの開示データを併用する続編で扱います。
- 配当除き: リターンは株価のみで、配当を含みません。低ミックス係数銘柄は配当利回りが高い傾向があるため、配当込みでは通過群がさらに有利に出る可能性がありますが、未検証です。
- 開示タイミングは近似: 「断面日時点で開示済み」の判定は期末+60日の固定ラグで近似しており、個別の開示日は突合していません。また、yfinanceの財務データは現在取得できる最新版で、過去の訂正前の数値は再現できません。
- 除外の内訳: 財務データ取得不能7銘柄・赤字/債務超過は延べ943件を母集団から除外 (赤字銘柄を含めた検証は別問題として設計が必要)・価格欠損延べ102件。
- 多重比較: 主仮説は書籍由来の22.5のみで、15/30は探索的な感度分析です (補正なしと明記)。
- 相場環境依存: 2024年断面のように優位が消えた年があります。過去の平均的傾向であり、将来を保証しません。投資判断はご自身の責任でお願いします。
私自身、キオクシアを買った直後に10分おきにチャートを確認し、トイレの個室で早売りした経験があります (その後、株価は何倍にもなりました)。機械的な数値基準に惹かれるのは、ああいう場面の心理が判断に入り込む余地がないからです。ただ、この検証をやってみて分かったのは、機械的な基準もまた「どの年に効き、どこまで信じられるか」を測ってから使うものだということでした。
まとめ
- ミックス係数22.5以下の通過群は、2023〜2025年の3断面 (延べ8,267件) で**1年後プラス率68.8%・中央値+10.59%**と、非通過群 (48.3%・-0.69%) を上回った。平均差の95%CIは+10.8〜+16.1ptでゼロを含まない。
- ただし日本株では6割超が「22.5以下」を通過するため、単独のスクリーニング条件としては機能しにくい。閾値を15に下げても過半が通る。
- 優位は年により消える (2024年断面はほぼ差なし)。生存バイアス・配当除き・約3年という制約つきの結果として扱うこと。
この結果をグレアムの採点表に持ち帰るなら、こう言えます。第7基準 (ミックス係数) は「過去3年の日本株では、非通過群に対する優位が確認できた基準」であり、同時に「単独では母集団の6割が通る、絞り込みには使えない基準」でした。基準を信じるか捨てるかではなく、測った上で役割を与える——検証の価値はこの解像度にあります。
グレアムの7基準の残り6項目とあわせた使い方や基準の思想的背景は、投資家シリーズの別記事に整理しています。極端な割安の実測は、ネットネット株の実測記事が続きます。
図表・データの引用について: 本記事の図表・集計値は、出典として「nitekabu Journal」と本記事URLを明記いただければ引用可能です。
検証環境: yfinance + JPX公式銘柄リスト・検証スクリプト mix_keisuu_kensho.py (コードレビュー7ラウンド・時価総額算出の突合検証済み)・集計日 2026-07-10。
書誌情報
- 『賢明なる投資家──割安株の見つけ方とバリュー投資を成功させる方法』ベンジャミン・グレアム著、土光篤洋監修、パンローリング — ミックス係数 (PER×PBR≤22.5) の出典。書籍ページ(Amazon)
免責事項: 本記事の検証結果は過去データに基づく統計的傾向であり、将来のパフォーマンスを保証するものではありません。特定銘柄・特定手法の売買を推奨するものではなく、投資判断は自己責任でお願いします。
// faq
よくある質問
Q. ミックス係数22.5以下の日本株は本当に多いのですか?
A. 多いです。本検証の2026年7月断面では、黒字・自己資本プラスの有効2,693銘柄のうち1,697銘柄 (約63%) がミックス係数22.5以下でした。日本市場では22.5という閾値は過半が通るため、単独では絞り込みとしてほぼ機能しません。
Q. ミックス係数の検証で通過群はどのくらい優位でしたか?
A. 2023〜2025年の3断面・延べ8,267件で、通過群の1年後プラス率は68.8%・リターン中央値+10.6%、非通過群は48.3%・-0.7%でした。平均リターン差の95%信頼区間は+10.8〜+16.1ポイントでゼロを含みません。ただし現存銘柄のみの検証で生存バイアスを含みます。
Q. 閾値を22.5から変えると結果は変わりますか?
A. 傾向は変わりませんでした。感度分析では15以下 (プラス率70.6%・中央値+12.0%) がやや強く、30以下 (67.6%・+9.7%) がやや弱い程度で、いずれも非通過群を上回りました。閾値の微調整より「低ミックス係数側に優位があった」という方向性が主な発見です。
Q. この検証はなぜ10年ではなく約3年分なのですか?
A. データソースのyfinanceが遡及できる年次財務データが約4〜5期分のためです。2022年断面はデータの残存が薄く (有効142銘柄) 参考扱いとし、集計は2023〜2025年の3断面に限定しました。10年検証はEDINETの開示データを併用する続編で扱う予定です。
Q. ミックス係数が低い銘柄を買えば儲かるということですか?
A. そうは言えません。本検証は過去の平均的な傾向であり、個々の銘柄の結果を保証しません。2024年断面のように差がほぼ消えた年もあります。また低い係数には業績悪化を織り込んだ「安いなりの理由」が含まれる場合があり、売買判断は別の検討が必要です。